年齢とともに気になる悩みの一つが髪のトラブル。
知らず知らずのうちにボリュームが落ちてしまったり、地肌が見えるようになってしまったという方も少なくないのではないでしょうか。
巷では、育毛剤や、スカルプケア用品、民間の育毛・発毛・植毛サロンもあるので、利用されたことがある人もいらっしゃるのではないかと思います。
矢野経済研究所のヘアケア市場に関する調査によると、「2016年度の毛髪業の市場規模は前年度比97.6%の1,369億円、植毛市場規模は同107.3%の44億円、発毛・育毛剤市場規模は同100.4%の675億円」という結果が出ており、市場規模が拡大しているのがわかります。
今回は、体や皮膚を若返らせることでも注目を集めている「ヒト幹細胞」が育毛・発毛の「医療の分野」でどのように取り入れられているかを取り上げたいと思います。
この記事を書いたのは…
緒方えり
日本化粧品検定1級・美容ライター
1989年生まれ。 大学卒業後は、大手製薬会社の化粧品事業部で5年半勤務。化粧品検定1級を取得。現在はNYで、化粧品の豊富な知識を生かして化粧品関連の執筆や監修を行う。趣味は、アメリカの美容や健康に関する記事を読んで情報を収集すること。
発毛・増毛のメカニズムについて
脱毛・薄毛は年齢とともに出てくる悩みの一つ。
その原因は、血行不良や頭皮の乾燥、ホルモンバランスなど複雑に。
さらに遺伝によっても症状が出やすい人、出にくい人がいます。
従来の育毛剤は、後ほど詳しく説明しますが、血行を促進したり、毛髪を皮膚内で固定している「毛包」部分を活性化させたり、男性ホルモンを抑えるものがあります。
発毛・増毛のメカニズムの話の前に、頭皮のメカニズムについて少しおさえておきたいと思います。
頭皮のメカニズムを知ろう
まずは、皮膚断面から見た毛髪の構造を見てみましょう。
画像引用:https://www.hairmedical.com
●毛乳頭:毛髪へ栄養を分を送り込み、成長させる司令塔
●毛包:毛根を包んで皮膚にしっかりと毛髪を固定する
これらの機能が正常であれば、必要以上に髪が抜けたり、成長が抑制されることはあまり考えられません。
ちなみに、健康的な毛髪を形成するためには栄養や酸素が必要不可欠ですが、主に肌内部の毛細血管によって運ばれます。
そのため、血行を常に良好に保つことも大切です。
頭皮の毛髪は1ヶ月におよそ1cmずつ伸びると言われています。
そして、1本あたりの寿命は約5年。
この5年間には以下のような時期があり、ヘアサイクル(毛周期)と呼ばれています。
・成長期
・退行期
・休止期
画像引用:https://www.hairmedical.com
つまり、健康的な髪の毛は、このサイクルも正常であるわけです。
逆に、何らかの原因で成長期の毛髪が一定期間に満たないまま成長がストップし、退行期、休止期、そして脱毛に至ってしまいます。
薄毛の原因は?
薄毛の原因は様々ですが、性別によって症状の現れ方や原因が微妙に異なります。
男性の場合
男性の場合、額の生え際や頭頂部などの局所から脱毛が進行する傾向があります。
原因としては主にこのようなことが考えられます。
- 男性ホルモン
- 遺伝
- ストレス
- 血行不良
- 頭皮の汚れ
さらに、AGA(男性型脱毛症)という診断名もあります。
さらに詳しく
「AGAは男性ホルモンが大きく関係しており、男性の体の中で作られるDHT(ジヒドロテストステロン)の分泌量が多くなることが原因の症状です。特に、生え際や頭頂部が薄くなるとAGAの可能性が高く、成人男性の3分の1が発症しています。」
女性の場合
女性の場合、局所的ではなく、全体的に薄くなっていく傾向があります。
男性より発症年齢が遅く、40代以上に多いようです。
女性型脱毛症の場合、このような原因が考えられます。
- 老化
- ダイエット
- ストレス
- 女性ホルモンの減少
- 冷え性
- 低体温
- 過剰な洗髪
- 髪の絡まりによる抜け毛
また、性別、年齢に関係なく発症する可能性がある「円形脱毛症」も男性より女性の方が比較的発症しやすいと言われています。
これは、精神的ストレスや自己免疫の過剰反応などが原因と考えられています。
従来の発毛・育毛治療にはどんなものがあった?
発毛、育毛治療はホルモンにも働きかけるので、性別によっても微妙に異なります。
ここでは一部の治療法を紹介したいと思います。
男性向け治療薬
●プロペシア(フィナステリド)
ミノキシジルは血管を拡張し、毛乳頭を刺激、毛母細胞を増殖することで発毛、育毛に効果を発揮します。
内服薬、また外用薬として使われます。
また、プロペシア(フィナステリド)は、男性のみ服用可能なAGA治療薬です。
その他、サプリメントや漢方薬と併用して治療するクリニックもあるようです。
女性向け治療薬
クリニックでは、ミノキシジルと合わせて使用することで効果が得られやすいサプリメントを一緒に出されることもあるようです。
注意点
医薬品の服用は、効果的ではありますが、副作用が出る可能性がありますので必ずドクターの指示に従って服用しましょう。
その他の育毛料
育毛料は、頭皮の働きを正常にして、育毛促進や脱毛予防のためのものです。
以下のような働きをする成分が入っているものがほとんどです。
血行促進系
毛包賦活系(毛母細胞などを活性化)
フケ改善
かゆみ改善
またその他にも、新しい毛根を植える植毛という方法もあります。
続いて、これまでの発毛・育毛法を踏まえ、「ヒト幹細胞」を利用した発毛・育毛について見ていきましょう。
ヒト幹細胞を利用した発毛・育毛治療とは?
近年では、先ほど紹介した発毛・育毛法に加え、ヒト幹細胞を利用した治療法が脚光を浴びているようなんです。
ヒト幹細胞を使った治療法にはこのようなものがあります。
HARG療法
直接幹細胞上澄み液を入れる方法
では、その内容を詳しく見ていきましょう。
HARG療法
幹細胞を培養する時、その細胞からタンパク質、栄養、細胞の増殖(成長因子)が生じます。
その培養液の上清(上澄み液)を乾燥させて粉末にしたものが製剤として使われます。
●HARG療法のメリット
年齢や性別を問わずあらゆる薄毛の症状に効果を発揮
一度治療をしたら発毛が続く
●HARG療法のデメリット
費用が100万円を超えることも
治療には半年から1年かかる
直接幹細胞の上澄み液を入れる方法
また最近では、幹細胞と、幹細胞を育てた上清液(上澄み液)を直接頭皮に投入する治療法も行われているようです。
こちらも、年齢や性別を問わず治療を受けることができます。
治療を受けた半数以上が、毛が増えたという報告*もあるくらい効果が期待できる治療法です。
エビデンス文献
*「身近になった再生医療-幹細胞を利用したインターナルアンチエイジング-」吉田治著/徳間書店/2012年
●直接幹細胞の上澄み液を入れる治療法のメリット
頭皮の脂肪不足を補い頭皮を柔らかくできる
施術自体は1回でOK
●直接幹細胞の上澄み液を入れる治療法のデメリット
費用がHERG療法よりもかかる
少量だが、脂肪採取が必要
ヒト幹細胞を利用した植毛治療とは?
植毛に関しても、ヒト幹細胞を使用することで、移植する毛根の生存率が高まるようです。
植毛手術で毛根の株を刺す時に、幹細胞やその培養液の上清(上澄み液)を加えると効果的と言われています。
●ヒト幹細胞を利用した植毛治療法のメリット
すでにアンチエイジングや乳房再生のために使われている安心感
●ヒト幹細胞を利用した植毛治療法のデメリット
まだ臨床試験ので検証中の段階で実用化されていない
★そもそもヒト幹細胞とは何かについては下記の記事を参照してください。
さらに詳しく
ヒト幹細胞を利用した発毛・育毛治療の安全性は?
ヒト幹細胞を使った発毛・育毛治療では、従来の治療法と比較しても、より効果が期待できるということがわかりました。
そこで、気になるのは安全性。
参考までにHARG開発者のAGA・薄毛治療院「桜花クリニック」の公式サイトを確認してみると、その他のAGA外来や植毛、育毛サロンなどと比べても安全性は高いと位置付けられていました。
画像引用:http://www.harg.org/
副作用についても、「これまでに治療による副作用は報告されていない」こと、ただ「個人差があるが人により注入時に痛みや赤みが出る人がいる」ということが表記されていました。
続いて、直接幹細胞を注入する治療法が受けられる「聖心毛髪再生外来」の公式サイトでも確認してみました。
こちらで使用されている機器については、欧州地域の法的規制について認可を受けており、「安全性に優れた治療」と案内されていました。
ただ、平均的に幹細胞を含んだ脂肪吸引と脂肪注入後2週間程度は内出血が続くようです。
注意点
ここで紹介した「安全性」については、各クリニックの情報をベースとしたものです。全ての方にアレルギー反応が出ないわけではないので、カウンセリングやアフターケアが充実したクリニックを選ばれることをお勧めします。
ヒト幹細胞を利用した発毛・育毛治療はどこで受けられる?
では、ヒト幹細胞を利用した発毛・育毛治療はどこで受けられるのでしょうか。
発毛・育毛クリニックの中でも、ヒト幹細胞を利用した治療法を受けられるところは限られているように感じます。
とはいえ、すべてをピックアップすることができないので、大手検索サイト「google」で、「ヒト幹細胞 発毛・育毛治療 病院」というキーワードで検索し、価格も含めた詳しい情報が得られたところを一部紹介します。
聖心美容クリニック(KERASTEM毛髪再生)
・直接幹細胞の上澄み液を入れる治療法
・価格:1,500,000円(税抜)
さくらビューティクリニック(プレミアム注射)
・ミノキシジル、プラセンタ、アミノ酸、ビタミンなどの発毛に有効な成分と、幹細胞(ステムセル)から抽出したタンパク質で、発毛に必要なKGF、PDGF、VEGFを含む約150種類もの成長因子(グロースファクター)を含んだAAPEを頭皮に直接注射
・価格:324,000円(税抜)
*1クール(6回)分の費用
銀座肌クリニック(HARG療法)
・HARG療法については上記の解説を参照してください
・価格:518,000円(税抜)
*頭部4分の1の費用
より地域を限定して病院・クリニックを調べたい場合は、さらに地域名も入れて検索すると、最寄りの幹細胞治療を行なっているところが見つかりやすいかもしれません。
注意点
治療を始める前に、幹細胞のドナーのこと、培養過程の検査項目などをドクターにしっかり確認しておきましょう。中には規制のない国で培養して安全性が保証されていないものを提供する悪徳業者もいるようです。
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ヒト幹細胞培養液は化粧品にも応用されている
これまで、ヒト幹細胞が医療行為として、発毛・育毛に応用されていることを紹介してきました。
効果がかなり期待できますが、お値段はやはりお安くはありません。
そこで、お試ししやすいヒト幹細胞培養液を使った育毛スプレーやローションがないか大手通販サイト「Amazon」で調べてみると、いくつかあるようでした。
ここではほんの一部を紹介します。
SEDNAS STローション
SEDNAS STローション
![]() |
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内容量 | 120mL |
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価格 | 9,612円(税込) |
特徴 | ヒト幹細胞培養液が配合された「養毛液」 |
*画像引用:https://sednas.easy-myshop.jp
Rambut Lotion(ランブットローション)
Rambut Lotion(ランブットローション)
![]() |
|
内容量 | 30mL |
---|---|
価格 | 17,380円(税込) |
特徴 | ヒト幹細胞培養液エキスを深くまで浸透させる「カプリロイルジペプチド17」を配合。 |
*画像引用:https://www.amazon.co.jp
またこの他にも、まつ毛用のヒト幹細胞培養液を使った美容液などもあるようでした。
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まとめ
今回、薄毛の性別ごとの原因や従来の治療法、そしてヒト幹細胞の医療分野における育毛・発毛への活用について紹介しました。
すでに一部のクリニックで実用化されており、高い効果が期待できること、安全であることがクローズアップされていました。
その一方で、コスト面ではまだ手が出しやすいとは言えないようにも感じます。
もちろん、従来の治療法や植毛やかつらの費用も決して安いものではないですが、化粧品のように「気軽に試す」というのはまだちょっと難しそうです。
とは言え、根本的に健康な髪を育てる元気な細胞が増え、根本的な治療ができます。
また一度治療をしたら発毛効果が長く続くなど、今までになかったことが実現できるのは大きな進歩と言えるのではないのでしょうか。
すでに、治療を受けられるクリニックもあるので、今までの育毛・発毛法では満足できなかったという方はぜひ挑戦してみられてはいかがでしょうか。
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エビデンスサイト
●ヘアケア市場に関する調査を実施(2017年)「矢野経済研究所」公式HPより
●「身近になった再生医療-幹細胞を利用したインターナルアンチエイジング-」吉田治著/徳間書店/2012年
●AGA治療の副作用と治療薬について「聖心毛髪再生外来」公式HPより
●薄毛・抜け毛治療(女性)「薄毛・抜け毛治療(女性)の美容と健康の肌外来のわかさクリニック」公式HPより
●薄毛治療「HARG(ハーグ)療法」とは?「HARG開発者のAGA・薄毛治療院 桜花クリニック」公式HPより
●再生医療で毛髪が復活?薄毛治療を変える「iPS細胞」「親和クリニック」公式HPより
●毛髪再生医療(薄毛、抜け毛)「さくらビューティクリニック」公式HPより
●発毛・育毛・薄毛治療「銀座肌クリニック」公式HPより